第6章 形の違う「好き」
「あ、あのが謝った…」
「嘘だろ」
「やっぱ千冬ってスゲー……」
クラスメイトが口々になにか発言しているのが聞こえる。聞こえるだけで、理解はしていない。緊張で変な汗が吹き出る。
俺の様子を察したのか、握りしめていた俺の拳をそっと優しく撫でた。
「そういう事だからこれまでの事は水に流せ。文句があるやつはオレに言いに来い。、掃除の時間だ。いこーぜ」
「あ、ああ…………」
もう大丈夫なのに、俺の手を優しくひいて歩く松野の背中がデカく見えた。
松野、カッコイイな。ヒーローみたいだ。
だからみんなこいつの事好きになるんだ。
***
「松野、これ重いからお前が持て」
「…………………お前なぁ」
「なんだよ、その顔。
勘違いすんなよ。たしかに絶対音感のせいで人を避けてはいたけど、そもそも不良は嫌いなんだよ」
「はいはいお姫様…オレが持ちます…」
誰がお姫様だ、と小さく悪態をつきながら箒で床をはいていく。
「うわっ」
足元にダンボールがあったのに気づかずつまづきそうになる。
「お前ほんとトロいのな」
「うっ、うるせえ!お前が変なとこに置くからだろ、片付けろ!」
「ったく、さっきまで人の胸でピーピー泣いてたくせに」
「テメェ!次その話したら殺すぞ!!」
「お前がか?やってみろよ」
ニタニタと嫌味たっぷりの笑みで挑発される。遊ばれてるのはわかってる。わかってるが、挑発をスルーできるほど俺は大人じゃない。
箒を用具入れにしまう。
「…覚悟しろよ、松野。」
悪いな松野、先に挑発してきたのはお前だ。
俺は自分の持てる全てをもって松野に殴りかかった。
はずだったが、全力で突き出した拳は意図も簡単に交わされ、更に足を引っ掛けられバランスを崩し倒れると思ったら流れるような動作で横向きに抱き上げられていた。
「捕まえたぜ、オレのお姫様」
顔が、近い。
「バッ…!テメェ!!ふざけんな、降ろせ!!」
「軽すぎお前。てかなんだよさっきのヒョロヒョロパンチ!人殴ったことねーだろ!」
「あるわけないだろ!!」
「だろうな!あはは、あれは傑作だったわ。
なあ、このままキスしていい?ブッ!!」
「ああ、今初めて殴ったわ。はやく降ろせ」
清掃終了のチャイムが鳴る。
なんだ、もう終わりか。無意識にそう思った自分に気づいた。