第6章 形の違う「好き」
「聞きたい。聞かせてくれ」
松野千冬。
有名な不良で、本来なら俺なんかが関わることは無かったはずだ。
ましてや友達になんかなるわけない存在だった。
なのに、なんでそんなに優しくするんだよ。
「………松野、絶対音感ってわかるか」
「聞いたことあるぜ。聞いた音の音階を瞬時に聞き分けられる能力だろ?」
「ん、まぁ、そんな感じ………」
「……まさかお前」
「…………そう。参っちゃうよな。実際こんなの持ってたって、たいして便利でもない。
それどころか、人の声も、車の音も、エアコンの音も、全部が不協和音で、気分が悪くなるんだよ」
話すつもりなんてなかった。
でも話し始めたら、何かから解き放たれたように止まらない。
「小学校の頃は、頭が痛いから静かにしてくれって頼んでた。でもさ、他のやつからしたら迷惑でしかないよな。遊びたいのに静かにしろだなんて。
で、そこから嫌われるようになって、周りに誰もいなくなって…………。
友達だった人に避けられることがこんなに辛いなら、それなら、最初から人と関わりを持たなければいいって、そう思ったんだよ」
「……………だから、あんな態度とってたのか」
「………ごめん、こんなの言い訳だよな」
「んなことねえだろ、何言ってんだお前」
大きな雲の群れが通りすぎて、再び太陽の光が強く射し込む。
ブリーチされた松野の髪が輝き、まるで大地から力強く咲き誇る向日葵みたいだと思った。
眩しすぎて、目が眩む。
「周りのために自分が孤独でいる道を選んだんだろ。やっぱいいやつじゃん。すげーよ、は。
ホント、お前と友達になれてよかった」
小学生の頃、泣きながら家に帰ったあの日。
母親は泣きじゃくるオレを抱きしめて、いつか本当の友達に出会えると優しく語りかけてくれた。
「松野っ…………うぅッ……………」
「おー、よしよし。今はオレ以外誰もいねーから好きなだけ泣けよ」
母親以外の前で泣いたのはいつぶりだろう。
よしよしと俺を優しく抱きしめる松野からは、やっぱり優しい香りがした。
「松野………俺、さっき言ったこと、皆に謝りたい…………………」