第6章 形の違う「好き」
「眼鏡、外していいか」
「…………好きにしろよ」
そっと外すと、あの美しい瞳が揺らいでいた。
陽の光で色素の薄い睫毛が光り輝く。
こんな時だと言うのに、心音がドッドッと加速する。
「…睫毛、ゴミついてる。取ってやるから目閉じて」
「え?ああ、悪い…」
そっと目を閉じたの顎をクイと持ち上げる。
ふわりと風が舞い上がり、サラサラとしたの長くクセのない前髪を揺らす。
ああ、この形の良い唇に優しくキスを落としたい。
そっと、顔を近づける。
「…」
ただ、それだけ。近づくだけで、触れることはしない。
唇同士が触れ合う事など、してはいけない。
そのかわりに、最初からゴミなんてついていない瞼にそっと触れる。弱々しい薄い瞼だ。そこから伸びる睫毛の一本一本に見惚れてしまう。
「………取れたぜ」
「ん?ああ、ありがとう」
「お前コンタクトにしねーの?」
「は?なんでだよ。前は外すなっていったじゃねえか」
「言ったけどさ。お前の顔、結構好きだからもっと見たいんだよ」
「バカにしてんのかお前。
ちなみにコンタクトはある。コンクールの時は眼鏡外してんだよ」
「マジ!?コンクールの時の写真ねえの?」
「ねえよ!あっても見せねえわ!」
「はは!よし、少しは元気になったみてーだな」
そういうと、バツの悪そうな顔をして小さく咳払いをした。
大分気持ちが落ち着いているようなので、再び話を切り出す。
「…で、さっきの続きだけど。なんで人と壁つくってんの?」
「………言いたくない」
「無理にとは言わねえけど。話してくれたらオレはお前の力になれると思うよ。それに、お前の悩みをオレも一緒に悩んでやりたい」
「………なんでだよ、なんでそんなに優しくしてくれるんだ。俺たちは、ついこの間まで他人だっただろ?」
「好きだから」
「え」
「お前が好きだからだよ。」
この言葉に、別の意味合いが込められているなんてお前は思わないだろうな。