第5章 もしもし、君へ
口が悪い上に、ピアノの腕は全国一位の天才というあまりにも近寄り難い雰囲気。からのあのチートのような美貌。
それらのミステリアスさ、もとい表面から見えている部分だけで恋に落ちてしまったのは事実だ。
しかし、そんな彼を知れば知るほど、底なし沼にハマっていくような感覚に陥っているのを自覚した。
不器用で、純粋。
それが今のあいつのイメージだ。
『友達』になってから、しどろもどろしながらあいつなりに寄り添おうとしてくるのが、愛おしくてたまらない。
あいつの事だ、きっと今もメールを送るか散々迷ったのだろう。
To:
件名:Re:うちの犬だよ
___________________
バルくんかっけーな!
うちはネコいるぜ、ペケJって名前
ペケJの写真を添付し、送信ボタンを押す。
「……………」
あーー、声、聞きてえな。
以前アドレスを交換した時に、ついでにと教えてもらった番号を探す。
一呼吸ついて、意を決したように電話を掛けた。
コール音よりも、鼓動が五月蝿く鳴る。
『も……もしもし……………』
でた。
機械越しに聞こえるの声に心が震える。
「………よ。今平気?」
『ああ、うん』
「何してたの?」
『ピアノ練習してて、終わったとこ』
「こんな時間までやってたのかよ」
『まあ、そうだな、暇な時は……その、松野は?』
「オレ?勉強」
『嘘つけ』
鼓動がうるさい。
なんでもない会話がとてつもなく幸せで、さっきからずっと情けない顔をしてる。
『ペケJ、かわいかった』
「だろ?イタズラ好きだけどな。お前んとこのバルくんデケェのな」
『ドーベルマンだからね。見た目はあんなだけど、すごく甘えん坊なんだ』
「はは、かわいーな。お前動物好きなんだ?」
『うん、好きだよ』