第5章 もしもし、君へ
素人のオレても、かなりレベルの高い演奏なのがわかった。
美しく光る雨粒が地面にぶつかり弾けるような演奏に体中が痺れた。
これが日本一の中学生。
これこそが、のもう一つの顔。
その凛とした姿と音色に、時間が経つのを忘れるほど惹き付けられた。
あの後、勢いで思わず抱きしめてしまった事は後悔していない。
甘い香りがした。華奢だった。髪ツヤツヤだった。離れがたかった。この気持ちは本物なのだと思い知らされた。
正直、軽く勃起した。
「……馬鹿かオレは」
夕飯を終え風呂に入って歯を磨き、自室に戻ったオレはメールを送ろうと携帯を触っていた。
最近、ちょっとした罪悪感に苛まれる。
初めて友達が出来た喜びで、以前にも増して表情が明るくなったの姿が忘れられない。
最初から友情ではなく恋愛対象として見ているくせに、相手の孤独を逆手取り「友達」という都合の良い言葉を利用して近づいてしまったような気がしてならない。
これは裏切りではないのだろうか。
「あ」
メールの受信音とともに、画面に表示されたのはの文字。
「え……」
From:
件名:うちの犬だよ
____________________
(画像ファイル)
今日は、俺からメールをしてみる。
ドーベルマンの、バルトークくん。
バルって呼んでるよ。
「っ…………」
あいつが。あのが自分からオレにメールをして来た。やたらと、と。の多い、いつもの堅い文面だ。
「はぁ………ずりぃわほんと」