第4章 独壇場
友達ができた。
「よ!おはよ、」
「え、あ、えと…………………お……はよ、う………」
「おう。昨日返信くれてありがとな。
今日さ、昼飯一緒に飯食おうぜ」
「え?!い、一緒に…?………べ、べ、つに………勝手にしろよ…………」
「おう、勝手にする」
そういってニカッと笑ったこの男。
校内では知らない人いないであろう、この中学校の大物中の大物『松野千冬』。
俺自身は、人より少しピアノが得意で、それしか取り柄のない地味な人間。
そのくせ、いりもしない絶対音感とかいう能力のせいで人とまともに関わるのを諦めていた。
正直、音楽やるなら絶対音感なんかより後から身につけられる相対音感の方が便利……というのは俺の個人的な考えなので割愛する。
とにかく、松野と俺には雲泥の差がある。
あいつが太陽なら、俺はその辺に生えてる木の影でしかないのだ。
もしかしたら、これは罰ゲームなのかもしれない。
それか、松野の暇つぶしか。
どちらにせよ、長い間他者との関わりを断っていたせいか心のどこかで不信感が拭いきれない。
だけど。
とりあえずは松野を信じたいと思った。
昼休みになった。
「っていつもどこで食ってんの?」
「あ……音楽室で、一人で食ってるけど……別に今日は別のところで」
「音楽室でいいよ。お前のこともっと知りたいし、オレはその方がいい」
「………そうか、じゃあ、行こう」
昼休みに音楽室に誰かを連れていくのは初めてだ。
友達がいないかわりに音楽の先生との仲は良好で、音楽室の鍵を自由に使うのを許可されている。
だから俺は、暇さえあればここに来てピアノを弾くのだ。
「ぷ!の弁当かわいいな、動物のピンって!」
「うるせえな!お母さんが勝手にこういうの刺すんだよ!」
「いいお母さんじゃん。
なー、お前の唐揚げオレの卵焼きと交換しようぜ」
「い、いいけど……………」
おかず交換なんて、初めてだ。
嬉しい。俺はこいつと関わるようになってから沢山の初めてを経験している。
「…………友達との弁当って、こんな感じなんだな…」
「?」
「………あ」
しまった。うっかり声に出ていた。
「悪い、なんでもない。独り言だ」
「友達といるとさ、もっと楽しいことあるぜ」