第16章 ギルと一緒に異世界満喫してきた!(ギルベルト)
――ということがあったのも、もうほぼ一年前。冬が過ぎ、春が去り、今はまた秋に差し掛かった頃だ。私たちはすっかりこの世界に馴染んでいた。刺客に狙われることのない環境で、それぞれやりたいことをやっている。
ギルは発展した科学に魅了され、大学という高等教育機関に通っている。この間もSSカーブが何とか、熱力学はかんとかと話していたが、ギルの説明力をもってしても私には全く理解ができなかった。ギルがそうだよねえと笑うものだから苦笑いしてしまった。
私はというと、相も変わらず本屋さんで働いている。紙とインクの香りはこの世界でも私を誘ったのだ。本は割引を効かせているが買い漁っているので、結局手元にあまりお金が残っていない。今日の本はかなり古いものを現代語に訳したものだ。訳してから三万部も売れたらしい。『竜と少女』と題されたそれは、両親を失ってひとりで暮らしている少女と、人間に傷付けられた竜の恋物語だった。
「うう……少女のお墓は故郷の森なの……」
涙と鼻水が止まらない。竜と少女は世界中を旅していたのに、お別れは出会った場所なのか。
「もうだめだ。これ以上は読めない。」
テレビをピッとつけた。
「では実際に私が、この才女と野獣のアトラクションに乗ってみたいと思います!」
「ネズミーランド……?」
テレビのアナウンサーの人が、まるで映画のセットのようなアトラクションに乗っている。乗り物のコーヒーカップはかなり揺れているようだ。
「わあ!」
丸いお皿や黄色い家具が歌って踊って才女を歓迎している。陽気な雰囲気に私も笑顔になってしまう。
「ねえ。ただいまって何回言えばいいの?」
「わー!」
ギルがテレビと私の間に突然現れた。ひっくり返りそうになった体をギルが支えてくれる。
「悲しいなあ。俺は早く子兎さんに会いたくて急いで帰ってきたのに、その子兎さんはテレビに夢中だなんて。権力を手に入れて軍隊を強化したくなってきたなあ。」
「すみません、でもすごく楽しそうなんですよ。」
拗ね始めたギルの手を引き、隣に座ってもらった。しっとりと汗ばんだ手は外にいた証拠だ。肩に頭も乗せれば、それ以上何か言う気は失せたようだ。
「ネズミーランド行きたい?」
「行きたいです! 本を我慢してお金を貯めないとですね!」
「その必要はないよ。」