第14章 小さな猛獣使い 後日談(クラヴィス)
「……というわけなんです。」
「あいつまた悪いこと企んでますね。」
「正直食事を毎回警戒しなきゃいけないのは辛いです。どうしたら……」
「お嬢さん、先手を打てばいいんですよ。」
「先手?」
「やられる前にやっちまえです。マタコウサギニナレール薬をクラヴィス様に使ってやりましょう。」
シリルさんは得意げに悪い笑みを浮かべている。殴る前に殴るのはアウトな気がするけどいいのか……?と考え込んでいると、シリルさんが再び口を開いた。
「お嬢さんがそんな薬を開発するなって怒っても、あいつは関心を引けたのが嬉しくて反省しません。自分が小さくなれば流石に反省するんじゃないですか?」
「確かに……」
「それにお嬢さんもクラヴィス様が小さくなった姿、見たいですよね?」
「見たいです!」
わくわくしてきた。そうと決まれば作戦を立てなければ。
「私、明日の昼前にクラヴィスさんが公務してる間に薬を取ってきます。シリルさんは配膳カートを人目が付かないところにこっそり待機させてくれませんか?」
「わかりました。あいつ薬がなくなったら警戒するんで、全部の料理にかけちゃってください。」
翌日、無事に薬をくすねた私は、ぱちゃぱちゃとクラヴィスさんの全ての料理に薬をかけた――
「なあベル。」
「なんですか?」
「さっき俺の研究室に盗人が入ってな。つい昨日完成した薬品が盗まれたんだが、何か知っていることはないか?」
「ええ……今聞くまで全く知りませんでした。怪しい人の目撃情報はないんですか?」
「ああ、何も。俺は内部の犯行だと思うんだが、どう思う?」
呼吸を無理やり整えた。美味しそうな料理を目の前にして、はりつめた空気が私を包む。今の私は会話より、動揺を顔に出さないように必死だ。
「そうですね……犯人を捜すことも大事ですが、ご飯も大事です。とりあえず食べませんか?」
「ははっ。しらばっくれているな?犯人は俺に近いシリルかお前しかありえない。お前は絶対に何か知っている。」
「私は本当に何も知りません。そこまで限られているなら、シリルさんが盗ったんじゃないですか?」
シリルさん、ごめんなさい……
「……」
「……」
「そもそも私は何の薬品が開発されていたのかすら知りません。盗む動機がないのでは?」
「そうだとしても、このままこの料理を食べるのは危険だとは思わないか?」