第14章 小さな猛獣使い 後日談(クラヴィス)
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サーッ
今日は雨だ。傾いている太陽は薄い雨雲にさえぎられて全く眩しくない。
私が文字通り子兎になった日から1年が経った。クラヴィスさんは自分の国を建国し、私たちはルルーシュ王国に移り住んで幸せに暮らしている。クラヴィスさんは私だけに毎日トラップを仕掛け、内政も外政も自分でこなし、最近は部屋に籠って新薬の開発をしているようだ。
私はドーナツを入れたかごを持って、クラヴィスさんが籠っているらしい部屋のドアノブをそっと回した。慎重に、バレないように部屋の中を覗き見る。なぜこんなことをしているかというと、クラヴィスさんの怪しい言動が原因だ。
数日前のこと――
「クラヴィスさん、ここ数ヶ月ずっと新薬の研究をしてるそうですね。今度はどんな迷惑な……画期的な新薬なんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。次の新薬はな、時代を変える魔法の薬だ。」
「クラヴィスさんがそれを言うとすごく怪しいんですが。」
「ははっ。まあ楽しみにしておけ。今はまだ詳細は内緒だ。」
怪しいとは言ったが、クラヴィスさんのことだ。きっと民が喜ぶ魔法の新薬に違いない。と思うものの、なぜ私には内緒なのだろうか、何度聞いても内緒にするほど重要な秘密が隠された薬とはなんなのだろうか、と疑問が浮かぶばかりだった。ずるい私はおやつを持ってきたという口実を作り、盗み見してみることにしたのだ。
クラヴィスさんはペット用の小さい檻の前にしゃがみこんでいて、檻の中には遠目からでは豆粒にしかみえない何かがうごめいている。クラヴィスさんは上から水をその豆粒にぽたぽたと垂らした。
すると、豆粒はぽんっ!と音を立てて大きなネズミになった。ま、まさか新薬は――
「ははっ、やっとだ。やっと、”マタコウサギニナレール薬”が完成したぞ! 」
時が止まった。クラヴィスさんは何ヶ月も、また私に牧草を食べさせる研究をしていたのだ。兎姿の私を可愛がりたい?そんなことはどうでもいい。私は人でいたい。
そもそも私が兎になったのは、クラヴィスさんにとってあまりいい思い出ではなかったはずだ。水で人に戻る保証があるならいいということだとすれば、身勝手だ。
じとっとクラヴィスさんを見て、どうすればいいか考える。シリルさんに相談し、夜ご飯に入れられないように今日は外食した方がよさそうだ。
ドーナツを抱えて廊下を駆け出した。