第13章 forget-me-not(キース)
雨がよく降る時期を通りすぎ、今はじりじりと焼かれているように暑い。仲間たちは葉っぱを枯らして、体も曲がってきている。日が昇ってかなり時間が経つはずなのにふわふわ頭の人はまだ来ていない。今日でもう3日も姿を見ていない。流石に喉がカラカラに乾ききっている。私はとうとう忘れられたのだろうか。元気がないのは仲間たちで、私はまだ元気だ。”まだ生きている”と言ってくれたのに。
動けないので助けを求めようがなく、ため息をついて辺りを見回した。白いプランターの縁をダンゴムシが歩いている。こんなところまで頑張って登ってきたのか。食べるなら元気な私ではなく、死にゆく仲間たちを食べてほしい。
こっちに向かって来ないで……見つけないで……と祈っていると、ドアが開いた。
「ちゃんと生きてるな。」
じょうろを手にしたふわふわ頭の人が出てきた。ずっと待っていたあの人だ。”忘れられた”なんて私の思い過ごしだったようだ。ふわふわ頭の人は私の前に座り込んでたっぷり水を飲ませてくれた。水の勢いは優しかった。
「今日も俺の雑談を聞いてくれるか?クズ貴族のことなんだが……」
人を殺している議員のことだろう。そう言えば真顔だった日に話していた。
「そいつには無駄に味方が多くてな。法廷に引きずり出しても無罪になるのは目に見えてた。だから俺が直接裁きを下しに行ってた。」
やはり悪は裁かれるのだ。ふわふわ頭の人は人にとっても正義のヒーローだ。ムキムキの体が頼もしい。
「そいつの土地はさくっと国所有のものにしてやったよ。思ったより捕まえるのに時間がかかって、しばらく水をやれなかったのは悪かったな。」
忘れられていなかったならそれはもうどうでもいいことだ。ふわふわ頭の人はアブラムシと同じように、ぽいっとダンゴムシも庭に投げた。その調子で黒髪の男の人も倒してくれると嬉しい。ふわふわ頭の人は葉っぱについた水滴を手で拭って、部屋に帰った。