第13章 forget-me-not(キース)
また日が昇った。最近は料理でもされているかのような暑さだ。私は美味しくない。仲間たちは完全に枯れ、ふわふわ頭の人が皆をどこかに連れて行ってしまった。私は広いプランターにぽつんと葉っぱを生やしている。上を見上げると、カッと眩しい太陽が見えた。土から顔を出して間もない頃以来の太陽だ。まだ子葉だった仲間たちの残像も見える。
ドアが開いてふわふわ頭の人が出てきた。今日は女の人も一緒だ。一緒に私の前にしゃがみこんで、ふわふわ頭の人が水を飲ませてくれる。
「この子、もう真夏なのに全然枯れる様子がないですね。」
「長生きしてくれてるね。大きくならないから正直そのうち枯れてしまうと思ったんだけど。」
「キース様のお世話が上手なんですよきっと。」
女の人が葉っぱについた水滴を拭うように私に触れた瞬間、私の体はぐんぐん伸び、大きな葉っぱが何枚も生え、沢山の瑠璃色の花が咲いた。ぽかんと自分の体を見つめていたが、じわじわと花を咲かせられた喜びが震えとなってこみ上がってきた。
「わあ、他のどの花とも違う色ですね!」
「……あっ、そうだね。俺は君がこんな能力を持っていたことに驚いているんだが……」
驚いてないで私の花を見てほしい。やっと、やっと咲かせられたのだ。
女の人がふわふわ頭の人の顔を両手で挟んで私の方に向けた。
「せっかくなので花を見てください。」
「……ごめん。この子はこんな綺麗な色の花だったんだね。」
可愛い、可愛いと言いながら女の人が私の花びらに触れた。
「あ……」
力が急に抜けたかと思えば、体の下からどんどん色がくすみ、花びらも葉っぱもくしゃくしゃになり、花が下を向き始めた。視界が端の方から暗くなっていく。
『ま、待って――』
――数秒前まで鮮やかな花を咲かせていたワスレナグサは、干からびて地面に寝そべっている。
「……枯れてしまったけど、この子の花が見られてよかった。ありがとう。」
キースは二人でしばらく枯れてしまった花を見つめていた。