第13章 forget-me-not(キース)
いつもと違ってふわふわ頭の人には笑顔がない。無言で水を飲ませてくれている。心なしか降ってくる水の勢いが昨日よりも優しい。
「……ったく、わかったよ。」
『?』
「ご機嫌いかがですか?」
ふわふわ頭の人はため息をついて、ご機嫌とは言い難い表情で言った。じょうろをコトッと横において、じっと私を見つめている。
「あいつは話しかけると花が元気になるって言ってるが、迷信に決まってるよな?」
毎日話しかけてくれていたのに今更どうしたのか。ちなみに迷信ではない。ふわふわ頭の人が話しかけてくれるのは私の毎日の楽しみだ。
ふわふわ頭の人は葉っぱについた水滴を拭ってくれようとして伸ばした手を止めた。
「アブラムシだらけかよ。お前も大変だな。」
そういえば体がむず痒い。体を見ると私よりも小さな緑色の虫がべたっと張り付いている。よく見ると仲間たちの膨らんだ蕾にもいつくものアブラムシがへばり付いている。ふわふわ頭の人は私と仲間たちについていた虫をぽいっとバルコニーの外に投げ飛ばした。
「あいつがうるさいから俺の雑談でも聞いてくれよ。俺に多額の献金をしている貴族がいるんだが……」
最初から何を言っているのか全く分からない。
「そいつ、障がいを持って生まれた子供を殺してホルマリン漬けにして、他国の医者に売ってる疑惑があってな。」
ちんぷんかんぷんだが殺しているなら悪いことをしているんだろう。殺されているのが他と違う子供なら、自分はふわふわ頭の人の花でよかった。
「報告書によれば、親には死産だと嘘をついてるんだと。とんでもない話だよな?」
とんでもない話だ。殺すのも嘘をつくのもよくない。その貴族という人は私にとってのあの黒髪の人みたいだ。
まあ、お前にはどうでもいい話だろうがな。と言って、ふわふわ頭の人は部屋に戻った。