第13章 forget-me-not(キース)
今日も朝がやってきた。いつものようにふわふわ頭の人が水を飲ませてくれるが、様子がおかしい。
「こほっこほっ……ごめんね。今日は起きた時から咳が止まらなくて……こほっげほっ」
これが風邪というものだろうか。花に風邪の辛さはわからないが、ふわふわ頭の人の眉間にはしわが寄っている。苦しそうだ。周りの花たちは”あなたが倒れたら私たちの水やりはどうなるのよ”などと相変わらず自由に話している。
――次の日、ふわふわ頭の人は顔が真っ赤だった。
「ベッドにいてください!水は私がやりますから。」
「ありがとう。でも俺がやるよ。」
「なんでそんなに自分でやりたがるんですか?」
「この子は俺が毎日様子を見て……ごほっ、ごほっ」
ふわふわ頭の人はゆらゆらと揺れるじょうろで水をくれている。女の人は何とも言えない微妙な顔をして口を引き結んだ。気にかけてくれるのは嬉しいが、ふわふわ頭の人は仕方がない部分がある人なのかもしれない。諦めたのか、女の人はふわふわ頭の人の隣にしゃがんだ。
「……この子は不思議ですね。風通しは悪くありませんし、肥料をあげても育たないなんて。」
「きっと条件の問題では……こほっ、ないんだろうね。」
私が花を咲かせたらこのふわふわ頭の人は、二人は笑顔になってくれるだろうか。咲けるなら、できれば花を咲かせた状態で時間が止まってほしいな。と二人の話を聞いてぼやっと考える。ふわふわ頭の人は3日経ってようやく症状が落ち着いたようだった。
それからは特に何もなく、毎日水を飲ませてもらい、話しかけられ、いつの間にか雪が降る季節は過ぎ去っていた。日の光が温かい……かは足元にほんの少ししか日が当たらないのでよくわからないが、過ごしやすい気温だ。
「ねえ、私もう咲きそうよ!」
「いいわねえ。私はもう少しかかりそうだわ。」
「どんな色なのか楽しみ!」
「そもそも、私たちって何色の花を咲かせられるのかしら。」
黄色やピンクがよくある色かもよ。と心の中で呟いた。遠目からだが、冬に庭に咲いていた花はそんな色が多かったはずだ。話しかけてみようか。でもどうしようかと悩んでいると、ドアが静かに開いた。
「…………」