第13章 forget-me-not(キース)
また朝が来た。今日は夜の間降り続いた雪が体に積もって、凍りそうだ。仲間の陰になっているというのに積もったのは風のせいだろうか。寒すぎてまったく眠れなかった。震わせようとしなくても震えている葉っぱから雪を落とそうとするが、一向に落ちる気配がない。それもそうだ。私たちは動くと言っても1ミリ動かすのに1時間かかる程度にしか動けないのだから。人の目から見て本当に震えられているのかすら怪しい。しかし周りの花たちは雪が楽しいのか、高い声でわいわいとおしゃべりしている。
「真っ白でふわふわね!何センチ積もってるのかしら。」
「ねえみてあそこ。人が歩いたところに足跡が付いてるわ。」
「羨ましいわ。私たちも歩けたら足跡を付ける楽しみがあるのに。」
景色なんて他の花が大きすぎてほとんど何も見えない。私も身長を伸ばしたかったものだ。
「あ、やっぱり積もってる。」
突然上から声が聞こえて上を見上げると、いつのまにかふわふわ頭の人が立っていた。雪を落とすのに必死すぎて気が付かなかった。ふわふわ頭の人は素手でいとも簡単に私と仲間たちの雪を払ってくれた。
「ごめん、流石に雪は冷たかったよね。今日は部屋の中に置くから許してくれ。」
よいしょ、と言ってふわふわ頭の人はプランターを持ち上げ、ドアの近くに敷いたリネンの上に置いてくれた。
「君は……凍ってはないね。君は弱々しくて、いつの間にかひっそり枯れてしまわないか心配だ。」
確かに私は皆の陰で人知れず枯れそうだ。でもまだ元気です!と言いたかったが、周りの声にさえぎられた。
「えー……外でよかったわ。」
「寒がってたのはあの子だけだったのにね。」
「残念ねえ。自力で動けたら外に出るんだけど。」
ふわふわ頭の人はこちらに背を向けてしゃがみこんでいる。暖炉に火をつけようとしているようだ。まだ火はついていないが、風がなく、人の熱気で温められた室内は外よりもずっと温かい。女の人もベッドからのそのそと降りてきた。二人はおはようとあいさつを交わしている。人の言葉でおはようと言えるのが羨ましい。私がどれだけ大きな声で叫んだとしてもふわふわ頭の人には届かない。
夕方になると雲は消え、夜にはバルコニーに雪解け水がぽたぽたと降ってきていた。プランターを外に戻され、ふわふわ頭の人はまた明日と言ってドアを閉めた。
