第13章 forget-me-not(キース)
ピーピピリリリリ
鳥の鳴き声で目が覚めた。キンキンに冷えた土のベッドの上で体を震わせる。目の前のドアに反射して見えている白い横長のプランターをぼうっと見ているとドアが開き、今日もふわふわ頭でムキムキの人が銀色のじょうろを手に取って話しかけてきた。
「おはよう。昨日は公務が少なくて、ゆっくり寝られる時間を取れたよ。」
カラカラに乾いた体にどばっと雨が降ってくる。美味しい水を飲んでいると、ふわふわ頭の人と目が合った。
「君は……今日も元気そうだね。よかった。」
気にかけてくれているのは、自分が子葉のまま育っていないからだろう。上を見上げても、本葉が6枚生えた大きな仲間たちの葉っぱで太陽が見えない。確か直接見ると眩しくて仕方がなかったはずだ。
「まあ、君はゆっくり育ってくれ。」
私の葉っぱについた水滴を拭ってふわふわ頭の人は部屋に戻った。ふわふわ頭の人が婚約者だと紹介していた女の人も目を覚まし、ベッドから出てきている。私の周りの花たちも目を覚ましたらしい。仲間たちはおしゃべり好きで、今日もさっそく笑い声が聞こえてきた。
「いつまで赤ちゃんのままなのかしら。」
「早く抜かれればいいのに。」
「なんであの人はこんな子をお世話し続けるのか不思議だわ。」
「……」
一緒に土から顔を出した頃は仲良くおしゃべりしてくれていた花たちは、今では私に話しかけることはない。すると部屋の中からも声が聞こえてきた。
「育たないなら抜いてはどうですか?他の花の栄養を吸ってしまいますよ。」
ぎょっとして室内をよく見ると、ふわふわ頭の人は黒髪の男の人と話しているようだ。あの黒髪の人はとんでもないことを言っている。葉っぱがカタカタと震えてきた。
「だめだ。まだ生きているだろう。」
ふわふわ頭の人ははっきりとそう言った。そう、まだ生きているのだ。意識だってある。
「栄養を吸うと言っても微々たるものだし、他の花に悪さなんてしない。」
あのふわふわ頭の人は安心できる人だと思うと、震えが収まってきた。黒髪の人はそれ以上何も言うことはなく、お茶を淹れている。見えない太陽を見上げ、仲間たちともおしゃべりすることもなく、風で舞っている枯れ葉を見つめていた。