第1章 ワンライまとめ
【似たもの同士】
2月20日、最近妻の様子がおかしい。やたら視線を感じるし、コソコソ俺に隠れて何かしているようだ。窓から日が差し込む廊下を歩いている今でも、斜め後ろを振り向けば柱の影からジーっと見つめられている。記念日と言われてぱっと思いつくのは誕生日だが、俺の誕生日はまだ5ヶ月も先だ。
「おい」
そう声をかけるとベルはビクッと体を揺らし、おずおずと柱の裏から出てきた。
「こ、こんにちは……」
「お前、最近変だぞ。何をコソコソしてんだ?」
「なんでもないですよ!本当に、なんでもないです……」
どう見ても何かある反応を残し、ベルはそそくさと廊下の奥に消えていった。
――2月24日、秘密が気になる俺は魔が差し、ベルの部屋に忍び込んだ。ベルは机に向かって何か作業しているようだ。ここは驚かせるに限るだろう。
俺はベルにそっと歩み寄り、勢いよく後ろから抱きしめた。
「何してんだ?」
その瞬間、ベルは今までで一番大きな悲鳴を上げた。もはや断末魔だ。俺の手を振りほどいて振り向いたかと思えば、バチン!と叩くように目を塞がれた。
「お前っ、そんなにするこたねぇだろ!」
「見ないでください!大声出しますよ!」
「いやもう出しただろ……この手そろそろ放せ」
「見ないって誓ってくれたら放します。」
「わかった見ねえよ」
「明後日になったらわかりますから、それまで待っててください」
手を放されてぼやけた視界のまま、部屋の外に出た。
――2月25日、ベルは朝起きるなり自室に戻り、何か片手に俺の部屋に戻ってきた。
「シルヴィオ様、これ受け取ってください」
にこにこと上機嫌で渡されたプレゼントの包み紙をさっそく開く。出てきたのは、向かい合ったダルメシアンと兎の刺繍が施された海色のハンカチだった。ベルと自分を連想するハンカチに、ベルらしいなと頬が緩む。
「私とシルヴィオ様を象徴するものが欲しくて、そのデザインにしたんです。明日は夫の日でしょう?」
そういえばそうだったか。ベニトアイトでは影が薄くてすっかり忘れていた。
「一日早えが」
「シルヴィオ様の喜ぶ姿を想像したら、我慢できなかったんです。」
まるで浮かれて飛び跳ねる兎みたいだ。お前も、我慢ができねえな