第1章 ワンライまとめ
⚠️リオ本編バレあります
【とある宮廷騎士の日常】
サァー…
ふんわりと甘い香りが優しい風に乗って漂ってくる。ぐぅと鳴ったお腹の音は聞かなかったことにし、任務のために気を引き締めた。
ベニトアイトの宮廷に勤める私は、ヴァレリオ様とベル様の護衛で街に来ていた。雑貨屋のドアの前で待機しているこの時間は、甘党にとっては地獄に他ならない。加えてこの時期にしては珍しく太陽が見え、蒸し暑い空気はじわりと、甲冑を着ている私に汗をかかせる。
チリンチリン
ドアベルが鳴り、ヴァレリオ様とベル様が雑貨屋から出てきた。お二人はドアの前で互いを見つめて、笑みを浮かべている。
今日は雑貨屋で新調を依頼していたしおりを受け取り、近くで開催されている世界のスイーツ展に行かれる予定だ。
しおりは1年前にヴァレリオ様から贈られた大切な物だそうで、ベル様はとても穏やかな表情をされている。ヴァレリオ様は蕩けるような笑みを浮かべられていて、今はリオ様のようだ。
世界のスイーツ展に向けて歩み出したお二人は手を繋ぎ、胸焼けしそうなほど仲睦まじいご様子だ。
「ヴァレリオ様、ベル様!」
喧騒の中から、はっきりと大きな声が聞こえた。声を飛ばした屋台は、ロードライト産のお菓子を販売しているようだ。同盟国という事もあってか、たくさんの人と熱気で蒸されそうだ。
「このお菓子、お二人の幸せを願って作ったんです!よければ貰ってください!」
「わあ、ありがとうございます。オレンジの薔薇のお菓子ですか」
「はい!オレンジ味のペーストを薔薇型にしてパイ生地で包んだものです。」
リオ様は少しの間を置いて1つだけもらい、手で器用に半分に分けた。
「はいどうぞ、ベル。」
「ふふ…ありがとうリオ。」
お二人は再び見つめ合い、笑みを浮かべた。このような仲の良さを見せつけられていると、そのうちのぼせてしまう。
「あ、ベルここにお菓子の欠片が…」
「え、んむっ……ちょ、ちょっとリオ!流石にこれは恥ずかしい…よ…」
今日はうだるように暑い日だったようだ。少しも吹かない風と熱い空気で肺が焼けてしまった。
――この日、胸焼け患者を多数作り出した噂は瞬く間に広まり、ベニトアイトではしばらくの間、オレンジの薔薇のお菓子が流行ったのだった。