第10章 束の間の夢(ギルベルト)
「いやあー可愛い!この子なんて言うんですか?」
「ギルベルトです。」
「ギ、ギルベルト……あのお方と同じなんですね!私子虎なんて初めて見ました!」
「わーう!わーう!」
「あら、威嚇してるのかしら。それでも可愛いですね。」
子虎を抱えた私の前にはちょっとした人だかりができていた。まったく効果のない威嚇が止まらないギルベルト様は、撫でようとする人全員に虎パンチを繰り出す攻防を続けている。もうだめだと思ったのか、ギルベルト様は控えていたローデリヒさんに助けを求めるようだ。
「わーう!」
ローデリヒさんは笑っていた。それはもう満面の笑みだった。
「それじゃあ、私たちはもう行きますね。」
子虎を見せびらかした満足感に浸り、人だかりをかき分けて歩く。ギルベルト様は通り過ぎてもなお人だかりに睨みをきかせている。普段の束縛のちょっとした仕返しができた気がした。
「よかったじゃないですか。皆に可愛がられて。」
「……」
なでなではお好みではないようだ。
私達はオブシディアンらしい黒のベンチを見つけ腰を下ろした。城を出てからずっと抱えているせいで腕が痛くなってきた。するとギルベルト様は私の膝の上に乗り、お腹を見せるように寝っ転がった。
これがごろにゃんというものだろうか。ギルベルト様は”わかっている”と察した瞬間だった。
腕の体力を考えるともうそろそろ帰った方がいいかもしれない。そういえば私が兎になったときは……とふとギルベルト様にされたことを思い出し、またにやりと笑った。
「疲れましたよねギルベルト様。お城に帰ったらお風呂、入りましょうか。」
「……」
「お尻まで洗ってあげますからね。」