第10章 束の間の夢(ギルベルト)
チュンチュン
少し寝苦しい空気の中で目が覚める。オブシディアンは冷涼だが、夏真っただ中のこの時期は流石に少し暑い。ギルベルト様の婚約者としてオブシディアン城に滞在を許されている私は、今日もギルベルト様のベットの中で二度寝を決める。……はずだったのだが。
ぺしぺし
顔に何かが当たっている。
ぺしぺし
どうやら気のせいではないようだ。しぶしぶ目を開けると、そこには子虎に見える黒いもふもふがちょこんと座っていた。
がばっと起き上がり周りを見るとギルベルト様の服が、本人だけいなくなったかのように綺麗に落ちている。これはもしかしなくてもあのパターンなのでは。
「ギルベルト様?」
「わーう」
自分も兎になったことがあるが、今度はギルベルト様が子虎になってしまうとは。
しかし不思議と自分の中に焦りはなかった。そして”いいこと”を思いついた私は子虎の頭をひと撫でし、にやりと笑みを浮かべた。
「今日は絶好のお散歩日和ですよギルベルト様。せっかくですから町に出掛けましょうか。」
気持ちよさそうに目を閉じていた子虎が目を開いた瞬間だった。