第4章 小さな猛獣使い(クラヴィス)
城に帰り、風呂の用意をさせている間に辺りはすっかり暗くなっていた。
「今のお前は体が小さい。甘い物は1口くらいにしなければ、体を壊してしまう。」
「ぶ、ぶぅ…」
「ははっ!安心しろ。クラヴィスさんお手製の兎用ご飯を作ってやる。必ずお前の舌に合うものを作ると約束しよう。」
顔面に笑顔を貼り付け、そう高らかに宣言する。兎になった感想をベルに聞くと、返って来たのは人参も牧草ももう勘弁してほしい。という切実な願いだった。
兎パンチを吹き込んだ張本人が用意を終え、部屋を出ていく。兎殿を抱えてバスルームに入ると、湯船からゆらゆらと上がっている湯気で部屋は温かくなっていた。服を脱いでいる俺から目を逸らすベルの様子は愛らしく、姿以外は何ら変わりはない。
兎殿を両手で持って湯船に入り、溺れないように腹の上に立たせた瞬間
ぽんっ!
物語の擬音のような音が聞こえると同時に、もくもくと薄い煙で視界が覆われた。手元を見下ろすと、見えたのはベルの胸だった。
人に戻ったベルはぱちくりと瞬きをし、何とも言えない表情でじっと俺を見つめた。
バスタブから溢れた水の滴る音だけが、広い浴室に反響する。
「きゃ、きゃー…クラヴィスさんのえっち……」
ベルはぎこちなく言いながらそっと胸を隠す。戻ってよかった。そう言えばいいものを、自分から出たのは特大のため息だった。
「あ、あの…ただいま帰りました。」
「おかえり。お前がいないと思っている間、俺は寂しくて寂しくてどうにかなりそうだったぞ?1回のきゃーでは精算できないな。」
肺いっぱいに温かい空気を吸い込んで再び吐き出すと、ごめんなさいと謝りながら、思いっきり胸に飛び込まれる。
最初は面白半分だった。愉快なプレゼントを真剣に考え始めてから言いにくくなった。などと言い訳をゴニョニョとしているが、そんな事はどうでもいいと思えるくらいの脱力感に襲われていた。
恥はどこへ行ったのやら、当たるものが当たっているベルを抱きしめ返す。俺の小言を念仏のようにブツブツと聞きかせると、ベルはすっかりしおれていた。
まあそれはそれとして、とベルの足を撫でると、ベルはピクっと体を揺らした。
「俺は足派だ。足でも抱き着いてくれないか?」