第4章 小さな猛獣使い(クラヴィス)
「…実は、その兎はお嬢さんなんです。」
クラヴィス様ちょっと…と風が強い路地に連れていかれ、コソコソと打ち明けられたのは信じ難い話だった。
ベルが朝起きたら兎になっていたこと、文字一覧表でやり取りができること、宮廷の者は皆知っていること、公務のお供は忠犬が提案したことをいっぺんに伝えられ、頭が混乱してしまう。
しかしとにかく、ベルが兎になったというのは本当なのだろう。確かにこの兎殿は兎らしからぬ言動が多かった。
思考を放棄し、サコッシュの中の兎殿、もといベルを見下ろすと、ウンウンと頷きが帰ってきた。その様子にほっと息をつく。
「ははっ!では『愉快なプレゼント』の話は全てベルに聞かれていたのか。また一から考え直さなくては。」
いつの間にか空には赤みが差し、影が濃くなっていた。
風上側に立ち、バックごと兎殿を抱き上げる。口周りを苺で若干赤くした兎殿は、ベルだと知ったせいか一層可愛らしく見えた。
兎殿を見つめて口角を上げる俺に、シリルは呆気にとられたようだった。
「あー、最初は面白がっててこう言うのはなんだと思いますが、不安じゃないんですか?」
「ああ全く。ベルはベルだろう。兎になっても一緒にいてくれて、俺は嬉しいぞ。」
今すぐに帰って風呂、俺の愛を込めた手作りディナー、その後はクラヴィスさんの読み聞かせ…と、真実を知っても変わらない自分に笑いを漏らす。
気遣わしげなシリルの視線は見なかったことにし、帰路へと急いだ。胸に溜まった重りとは裏腹に、足取りは軽かった。