第4章 小さな猛獣使い(クラヴィス)
建物の間から吹いた風が屋台を揺らしている。商人から本を受け取った後、兎殿をサコッシュに入れ、シリルと甘い匂いで充満した市場を歩いていた。
「なあシリル。ブックカバーの方がいいと思わないか?しおりもいいが、この時期は本の表紙でさえ冷たい。愛を伝えつつ、手を労れる優れ物だと思うんが。」
「…ええ、それでいいと思います。」
シリルは適当に受け流し、小さく息を吐き出した。この光景も今日は何度目だろうか。
「愉快なプレゼント」の話をする度にベルはサコッシュの中からクラヴィスを伺うように見つめ、クラヴィスは兎の頭を撫でる。シリルはそれを見る度に眉尻を下げる。そんな何とも言えない空気を醸し出す2人と1匹に、周囲は普段とは別の意味で注目していた。
自分もさりげなく息を吐き出したが、吸うと同時に胸の重りが溜まっていくようだ。
ふと果物屋の屋台が目に入り、足を止めた。
「もうおやつの時間だったな。苺はどうだ、兎殿。昼の牧草よりは美味いぞ?」
「兎は苺大丈夫でしたっけ?」
「ああ。たまに1口くらいなら問題ない。」
何をしていても、考えてしまうのはベルのことだ。サプライズをしようとしているのか、悩みがあるのか、それとも構いすぎたのか…考え出すとキリがない。
「ところで店主、最近ベルの様子がおかしかったことは無いか?」
「変わった様子?無かったと思いますが…そういえばあの子、今日は体調を崩して打ち合わせに行ってないらしいですよ。クラヴィス様聞いてないんですか?」
瞬間、市場の喧騒が遠のく。棒のように長い間突っ立ち、我に返ると隣にいたシリルは気まずそうに主を伺っていた。