第4章 小さな猛獣使い(クラヴィス)
時刻は午後2時。俺はベル、兎殿と昼食を取り、可愛らしい2人を尻目に公務をしていた。
…はずだったのだが。
おかしい。何故ベルにいつまで経っても会えないんだ?俺から会いに行っても、使用人達は口を揃えて「もう行ってしまった。」と言う。記念日はまだ先だ。俺に隠れてするような事は何も無いと思うんだが… 俺は嫌われてしまったんだろうか。いや、ベルはろくでもない俺をいつも心から愛してくれて…
コンコンコン、と執務室にノックの音が響き、思考を遮られる。
「失礼します。クラヴィス様、先日の件ですが…っ……」
またか。目の前の官僚は膝にちょこんと座っている兎殿と俺を見て、笑いを耐えながら用件を話している。この光景を今日は何度見ただろうか。あのシュヴァでさえも鼻で笑うなど、明日は槍が降るに違いない。ついでに「本の遣いをしろ」と言われたが、今日だけは殺意を向ける気分にはなれそうにない。
用件を伝えるだけ伝えて、官僚はそそくさと執務室を出て行く。
「ぶぅ、ぶぅ!」
「ああ…そうだな、少し茶を飲むか。」
この兎殿も不思議で、1時間毎に俺が休憩を取らないと気が済まないらしい。時報を流そうとするとパンチを飛ばされるとは、思いもしなかった。痛くも痒くも何ともない、ただ可愛らしいだけなんだが… 一体誰が教えたんだ。
溜め息をつきながら椅子に半分寝るように座り直すと、視界の端で何かが煌めいた。
目をやると薔薇園が雪解け水で光り輝き、所々に残った雪が一層薔薇の美しさを際立たせていた。
思えば、もう何日もろくに景色を見ていなかった気がする。
「…兎殿。部屋に篭っていては退屈だろう。本の遣いで街に降りるんだが、お前も来るか?」
そう言えば、待ってましたと言わんばかりに兎殿は肩に飛び乗る。
「よし、決まりだな。」
まるで素直な時のベルのようだ。ベルも俺が好きで仕方が無いからな。会えないのは、サプライズでもしようとしているからなんだろう。
兎殿に恋人を重ねてしまう自分に乾いた笑いを漏らし、部屋を後にした。