第4章 小さな猛獣使い(クラヴィス)
「本当にベルなの?」
ほどなくしてお茶と食事を持って来てくれたリオに、私は文字一覧表を使って説明していた。
今日だけはクラヴィスさんの朝が遅くて助かった。私が兎になったと知れば、面白がるに決まっている。
リオはしばらく困惑顔で固まっていたが、流石に認めざるを得なかったようだ。
「……とりあえず、お腹空いたでしょ?兎用のご飯持ってくるから、ちょっと待っててね!」
私の大好きなリオお手製サンドイッチが、ワゴンに乗って行ってしまう。ただ見ていられるはずもなく、声を張り上げる。少しくらいなら大丈夫だろう。
「ふぅ!ふ、ふぅ…ふー!」
「ベル…兎に声帯は無いんだよ。声を出したいなら、喉を頑張って鳴らすしかない。」
そうなんだ…
自分で想像していたより、この姿でのコミュニケーションには難がありそうだ。不自由さと遠くに行きかけたサンドイッチに、ため息をつく。この姿で何ができるのか…
「そんなに落ち込まないで。俺もクラヴィスサマも、ベルが大好きなんだよ?気持ちはちゃんと伝わるから、大丈夫!」
でもこんな姿じゃお茶なんて出せないし、抱きしめられもしない。クラヴィスさんを愛せないよ。
耳を垂らした私とは対照的に、リオは笑顔だった。
「ベル、これはチャンスかもしれないよ。ベルはいつもクラヴィスサマを働きすぎだって心配してたでしょ?兎の姿なら、ただ傍に居るだけでも癒される事間違いなしだよ!もし無理をしようとしたら、兎パンチでもしてあげよう!」
いつ戻るのか、そもそも戻れるのか、不確定要素が多いにも関わらず、リオは明るくそう答えた。
――確かにそうかもしれない。
「安心して。クラヴィスサマ以外には、俺が上手くベルの居場所は誤魔化すように伝えておくから!」
友人の頼もしい言葉に、自然と耳が上がった。