第1章 夏の思い出
古びた家屋に古びた木製の看板、
“宿”
そう書かれた文字は昔こそ金色の文字だったのか一部分にだけその跡が見える。
「すみませーん」
玄関なのか入り口なのか分からない場所から声をかけると奥から、腰の曲がった老婆が出てくる。
「はいはい」
「あの、今日予約した」
予約された名前が分からずに言葉を詰まらせてしまう、それなのに目の前の腰が曲がった老人は疑問に思うのは事なくすんなりと受け入れる
「ああ!!はいはい…高鳥さんね!」
「(高鳥って…単純すぎるでしょ、目良さん…)」
「なんで!?アンタそのナリどうした?」
返事をする前に濡れて居る事を聞かれて苦笑する
「海に落ちました」
そう、笑えば老婆は不思議そうに首を傾げ、突然大きな声で名前を呼ぶ
「なまえ!!タオル、持ってこれるけ?こんぼこびしょ濡れになってるよ、おまんとおんなじじゃ」
方言がキツい。喋ってる意味はニュアンスで何となく理解はするが訛りが酷く自信がない。
「はーい!ばぁちゃんタオルこれでいい?」
そう言って廊下に顔を出した少女はオレを見て、“あ”と声を漏らす。
「なんで?知り合いけ?」
「あ、うん。さっき海であって…」
そう言うと老婆はオレとなまえと呼ばれる少女を交互にみて、嬉しそうに笑い
「なまえお風呂まで案内してあげなさい」
「う、うん…さっきはすみませんでした、こっちです」
先ほどとは違い少し丁寧な言葉遣いと所作に思わず口元が持ち上がってしまう。
その表情をみて少女は唇を尖らせ、ぷいっと顔を背け声を荒げる
「こっちです!!」
「お客様になっつー言い方するだっ!!」
「おばあちゃん、大丈夫ですよ?気にして無いんで…なまえちゃんって言うんだよね?案内してもらっても良い?」
なまえちゃんは眉間に皺が寄るくらい眉を顰めてからクルリと体を翻して
「こっち!!」
「なまえっ!ごめんねぇ、あんな態度したこんないに」
「お手伝いして良い子じゃないですかー」
「アンタも良い子だよ、孫が2人居るみたいで嬉しいわ」
そう笑い早く行けと言わんばかり手をひらひらとさせる。処世術。公安に仕込まれたとは言えこの技は本当によく使える。
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