第1章 夏の思い出
「違うよ、君が落ちたと思ったの」
少女は驚いた様に目を見開いて
ちゃぷちゃぷと泳ぎ近寄ってくる
「ごめんなさい」
「いや、オレの勘違いだから謝らないで」
すいすいと泳いで桟橋へと近づいて板を掴み
腕の力で桟橋へ上がる
ポタポタと滴れる水が広がっては乾いていく
その後に続く様に桟橋に手が置かれて
水中にいた少女が這い出してくる
高い位置に出るのが大変なのか体が上半身で止まってしまう。
「出れないの?」
「ふ、普段はもっと低い所から上がってて」
「ふーん」
「あ、あの…助けて」
「手触るよ?」
許可を得てから手に触れて少女の体を引っ張ると体が引きずられて出てくる。
着ていたワンピースが体に纏わり付いていき体のラインが見え始める
下着の色を認識できそうになるのが見えてカバンから薄い羽織を取り出して
パサリと上着を投げつける。
「見えそうだから着てくれる?」
少女は座り直し視線を下にして笑い応える
「水着だよ?」
「水着も下着も変わらないでしょ?人にも見られるし…」
「こんなところ人なんてそうそう通らない」
「いや、現にオレが居るでしょ?」
そう言うと渋々では有るが上着を羽織る動きを見せる
チラリとオレを見て小さな声で呟く
「変な人」
その言葉に少しだけイラッとしたが表情に出さないようにニコリと笑う。
その瞬間に、少女は立ち上がり走り出す
「やばっ!!ばぁちゃんに怒られる!!」
走り出した瞬間に少女の体に走るノイズ
スッと姿が消えて辺りを見回せば離れた場所に有る自転車に跨がり走らせる姿。
こちらを振り向いて大声でありがとー!と叫び大きく手を振って貸したはずの上着はオレの手の中に戻って居る
「テレポート…?」
纏わりつく服から雫が落ちて海に落ちた地図を剛翼を使って拾い上げる。
濡れて使い物にはならないその紙と荷物、最低限の荷物を入れた鞄と共に桟橋から街の方向へと歩き出した。
ーーー