第1章 夏の思い出
ザリっとする独特な感覚――
手を繋いで海岸線を歩けば、手に伝わる熱が徐々に暖かくなっていく。
「あのさ、オレ…なまえちゃんに初めてあった日、桟橋からの風景が綺麗でずっと眺めてたんだ」
「分かるっ…あの桟橋からの風景すごく綺麗だよね」
そう笑うなまえちゃん。
あの日桟橋から海に飛び込むなまえちゃんがとても綺麗で見惚れた事を伝えるべきだと思っていた。
それなのに、なまえちゃんを見たら言えなかった…。
別れを告げる相手にそんな事言われても迷惑なだけだ
だから数ある言葉から選んで最も
当たり障りのない本心を伝えた。
「今年の夏が1番楽しくて幸せだった…ありがとう」
「せっかく、笑ってバイバイ出来そうだったのに」
そう言ってなまえちゃんは涙をこぼして笑った。
「私も、この夏が1番楽しくて幸せだったよ」
「オレは、ヒーローが暇を持て余す世の中にしたい…オレの力で守りたいのは、この世界なんだ…なまえちゃんや、ばぁちゃんもその中に居るから…だから、もし…なまえちゃんさえ良ければ…オレの事務所に「行かない。…ごめん、すごく嬉しいのけど、私。ばぁちゃんを置いていけない」
その瞳にはもう涙なんて無かった。
その表情を確認してして繋いでいた手を離してバサリと羽を広げ、空中へとフワリと浮き上がる。
「分かってたよ、なまえちゃんならそう言うって…なら、ヒーローが暇になったら会いにくるから」
ゴーグルを目元に下げてさらに高く舞い上がる。
なまえちゃんの体にノイズが走る。
浮き上がったオレの目の前に現れて抱きついてきて唇に柔らかいものが触れたような気がした。
「じゃあね…好きだったよ。ホークス期待しないで待ってるから」
その言葉に抱きしめ返すように手を回したのに、オレの腕の中にはなまえちゃんは居なかった。
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