第1章 夏の思い出
その2日後に、ばぁちゃんもなまえちゃんも退院した。
この町で過ごした日々は夢のような時間だった。
「たかちゃん。洗濯物をお願いできるけ?」
ばぁちゃんの怪我は思ったよりも酷くなくて敵の個性で気絶した時に額を切っただけだったようだ。
オレの事を“ホークス”とは知らずに“たかちゃん”と呼んでくれるのが嬉しかった。
「ばぁちゃん、オレ今日帰るって言ったでしょ?」
「最後なんだから洗濯物くらい手伝えし」
「…絶対フェリー乗り遅れるよ」
「夕飯も食べていけばいいさ」
へへへと笑うばあちゃんに思わず苦笑してしまう。
「ばぁちゃん、そしたら高鳥くん本当に帰れなくなるよ?」
「たかちゃんはこの町にずっと住めばいい」
「ばぁちゃん、流石にそれはまずいよ…オレ、就職決まってるんだから」
ばぁちゃんは、驚いた顔をしてその後すぐに寂しそうな顔をした。
その顔を確認してなまえちゃんが明るい声で話しかける
「ほら、ばぁちゃん!そんな悲しい顔しないでっ!可愛い孫が居るでしょ!」
「自分で言う?…ねぇ、ばあちゃん。オレいつでも来ていいかな?」
「いいに決まってる…よ…アンタは私の孫なんだから…可愛い。可愛い孫なんだよ」
ばあちゃんは震えた声でオレの事を抱きしめてくれた。暖かい抱擁にばあちゃんの小さ体をぎゅっと抱きしめ返した。
しばらくの時間抱きしめてくれたばあちゃんは体を離すと
「もう行けッ…」
そう言って風呂敷いっぱいの土産を押しつけた。
「なまえちゃん、たかちゃんを港まで送ってあげなさい」
そう言ってばあちゃんは玄関までオレの背中を押した。追い出されるような形になったオレは靴に足を入れて玄関から外へと足を踏み出した。
初めてここの玄関を潜った日に聞こえた蝉の声はそれは騒がしく暑さを感じたのに、今はカナカナと哀愁を漂わせる音を奏でていた。
夏が終わる