第1章 夏の思い出
アスファルトの道へと出れば男はオレから離れて真っ直ぐ目を見つめて言う
「高鳥っお前、本当に、この夏でさよならなんて言うんじゃねぇよなぁ」
「いいますよ」
「なら、オレがなまえを貰うからなっ」
「構わないです」
また胸ぐらを掴まれ引き寄せられる。見下ろされて何か言いたそうなその顔をじっと見つめ返す。
握られた拳が振り上げられる。それなのにオレに振り下ろされる事はなくブルブルと震える。
「殴ってくださいよ」
「殴ったらお前は、なまえを置いていく事に罪の意識が薄れるだろ、オレが居るから引いてやったって…」
「ッ…んなわけなかっ」
「好きなら好きって言ってやれよ」
その時だった、救急車のサイレンの音が鳴り響き横をすり抜けていく。オレの物ではないスマホの着信音
「もしもしっ!!!なんだっ!今大事な話……っ!?…どう言う事だよ…いや…」
目の前の男が膝から崩れ落ちる。その手からスマホがスルリと滑る。剛翼でキャッチして耳へと当てれば叫ぶような男の声。
『聞こえてるか!?みょうじのばぁちゃんが頭から血を流して倒れてたんだよっ!!』
「ばぁちゃんの意識、呼吸は?部屋の状況は?」
『えっ、お前誰だよ』
「早く!意識、呼吸、部屋の状況」
『こ、呼吸も意識もある…部屋はなんか、一室だけ荒らされてて』
「なまえちゃんは!?」
『えっ…お祭りに』
その言葉に大きく羽を広げて上空へと飛び上がる。
羽を広げて周囲に飛ばして探索を始める、それと同時に羽を動かしてばぁちゃんの家へ向かう。
家の周りは赤色灯と黄色いテープ地面に降り立ってそのテープをくぐり抜け中に入る
静止する声を気に留めずストレッチャーへ走り寄る
「ばぁちゃん!!」
「離れてくださいっ!」
叫んでも目を瞑り頭から血を流している。
上下に動く胸もとを確認をして家の中へと入り、オレの部屋へと走る。
荒らされた部屋に撒き散らしてある書類と血溜まり。
そこに落ちる見覚えのある簪を拾い上げ力強く握りしめる。
「なまえちゃん…」
窓の縁に足をかけて外へと飛び出す。
空中へと浮かび上がる。