第1章 夏の思い出
「なまえちゃん、もう、行くよ…」
手を引っ張ってその場からなまえちゃんを離そうとする。なのに。反対側のてを男が掴み引き止める。その目は真っ直ぐでオレをチラリと一瞥して
大声で叫ぶように
「好きだなまえ!!」
愛の告白。
この男には、もうこの行動しか残されてなかったのだろう。
なまえちゃんが驚き笑う。
行き交う人が足を止め、ザワザワと見つめる。
“みょうじさんの孫じゃん”“やっぱり、あの子となまえちゃんは両思いだったんだね”
と噂が聞こえる。
なまえちゃんはフルフルとまた首を横に振り
「ごめんなさい、この夏は高鳥くんの思い出でいっぱいにしたい」
そう言ってなまえちゃんはオレの手を引っ張って走り出す。
なまえちゃんのテレポートはこういう時不便だ。
1人だけなら簡単に姿をくらませるのに、人が居るだけで何にも出来なくなる。
赤い羽を広げてなまえちゃんを抱えてバサリと動かして宙を舞う。
首元に縋り付いてなまえちゃんは震えている。
「なまえ!!…高鳥っ!!降りてこい」
悲鳴に近い男の声が響き渡る。
声が届かない位置まで浮かび上がりふわりと空中にたたずむ。
「高鳥くんごめんねっ」
「謝らないで」
「この夏で高鳥くんは帰っちゃうの分かってるの、けどね、それでも、今年の夏は高鳥くんの思い出だけにしたい。桟橋で助けてくれた日から高鳥くんが…」
その言葉をなまえちゃんが言いかけた時だった。
爆音が聞こえ、夜空に眩い光の花が開く。
あまりの綺麗さに目を奪われる。
それは、オレだけじゃなくてなまえちゃんもだった。
言いかけた言葉を続かせることなく悔い入るように花火を見つめていた。
オレはと言えば、なまえちゃんのその横顔がとても綺麗でその光景に目も心も奪われていた。
「君に会えてよかった」
「え?ごめん、花火の音で聞こえなかったっ!もう一回言って?」
「何にも言ってないよ」
そう笑いかけてればなまえちゃんはまた花火の方へと視線を戻した。
空が静かになり地面へと降り立つ。抱きしめ合っていた熱と夏の暑さ。熱いと分かっていても、汗をかいてもその抱擁を離したく無かった。あと少しだけ、もう少し。