第1章 夏の思い出
それなのに、その言葉にどう答えるべきなのか答えを導き出せずにただ黙って隣を歩く。その後ろを静かになまえちゃんは着いてきてくれる。
沈黙は卑怯な手段だ
「高鳥くーん!見てっ」
後ろを振り向けばキツネのお面をつけたなまえちゃんが手を振る。
オレの反応なんて気にしてないのかニコニコと笑って店主と話をしているお金を払う仕草とお面を受け取るなまえちゃん。ノイズが走りなまえちゃんが消える。次の瞬間には唇が触れそうなほど顔が近くてオレの視界を奪うように目隠しがされる。
「あのさー。付け方とかもう少し考えてよ」
「うわー!高鳥くん、格好いい!!しゃ、写真」
「聞いてますー?オレの話」
「少しだけ聞いてる」
そう言ってなまえちゃんはスマホをオレに向ける。どうせお面をつけてるならオレだなんて分からないだろう。そんな気まぐれに腕を引いて体を近づけてカメラを持つなまえちゃんの手に手を重ねて、仕返しのように顔を近づける
「近いっ!た…高鳥くん」
「先にオレが顔近いっていったの」
「けどっ…」
「けど?ほら写真撮るんでしょ?笑ってー」
その言葉になまえちゃんは顔を赤らめながら微かに笑う。
映る写真は、お面を被ったオレとなまえちゃん。今の状況と変わらない…偽りの姿をしたオレと何にも知らず笑顔を見せるなまえちゃん。
写真が欲しいなんてオレの口から言えそうに無い、血塗れな映像ばかりな瞼の裏に綺麗な映像焼き付けておこう。