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夏の思い出

第1章 夏の思い出


そう言うと小走りになり浴衣をヒラヒラと風に舞わせて目の前で振り向く。

「この夏が今までで1番楽しい夏になるようにしようよ!」

その言葉となまえちゃんに魅入られて呼吸をするのをわすれてしまう。
今まで一度も考えた事のなかった自分の幸せを考えさせられる様なその感覚。

“ヒーローが暇を持て余す世界”

目指す世界は目の前に有る暖かい空間を守るための物。そんな普通に“楽しむ”甘い空間を知った時オレは元の非道徳な世界に戻る事が出来るのか…

「高鳥…くん?」

差し伸べた手が下ろされて、立ち止まるオレを心配して近寄りなまえちゃんが覗き込む。

「ごめん、いけない…」

羽を広げて逃げる様に空へと浮かび上がる。



なまえちゃんの声が下から聞こえるのを無視して猛スピードで桟橋まで逃げてきてしまう。

オレの悪い癖がまた出ている。
困った事や考え事をする時に口元へ手を置いてしまう…。

「格好悪…お祭りなんか適当にこなせば良かったのに」

つぶやいてしゃがみ込む。


ベシャリ、


その音に振り向けばなまえちゃんが桟橋の上でへたり込んで居る。オレの方へと顔を上げる。

「ッチ」

思わず舌打ちをしてしまう。テレポートの個性をここまで使ってくるとは考えていなかった。空中にふわりと体を浮かせ空高く飛び上がる。

「まって!!」

その言葉と共になまえちゃんの体が桟橋から消える。まさかと思い周囲を見回す。

「きゃーー!!!」

上から聞こえる悲鳴。目の前を落ちていく浴衣姿の女の子。

「なまえちゃん!!」

思わず手を伸ばして落ちていく体を止めてしまう。染み付いたヒーローとしての行動。またここでなまえちゃんを助ける行動をしてしまう。

抱き締めて受け止めた、なまえちゃんの体は細くてオレとは違う体つきだった。
空中に浮きながらなまえちゃんは声を荒げる

「なんで逃げるのっ!?そんなの卑怯だよっ…なんで逃げたの?理由教えてよっ!!」

その叫びに近い声に心が痛くなる。

「…オレには守りたいモノがあるんだ…そのために…全部切り捨てた、だから、普通の生活を楽しんでしまう事が怖い」

そうなまえちゃんに伝えるとなまえちゃんは先ほどとは違う声の荒げ方になる。

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