第3章 覚悟
もう罠でもいい。
背を向けたまま止まってしまった志保さんの背中に、ゆっくりと近づいて。
「内村さん…、おれ、嬉しいです」
呻くように呟いて、彼女を後ろからぎゅっと抱きしめていた。
伝票が床に落ちる。
こんなこと、許されないのに…。
「おれ、ずっと内村さんのこと…」
仕事のこと、彼女の左手の指輪のこと、全てが頭の隅に追いやられて。
彼女を抱きしめる腕に力を込める。
「内村さんのこと、好きだったんです」
ああ、ダメなのに。
言ってしまった。
ふと、自分の汗が気になったけど。
彼女は、おれの腕を振りほどくでもなく、そっと手を重ねてきてくれた。