第2章 誘惑
「どうかしました…?」
あんな挑発をしておいて、白々しくそんなことを聞いてくる。
「あ、いえ、それでは受け取りのハンコかサインを…」
慌てて伝票を差し出して、平常心を取り戻そうと深く息を吐く。
余計なことを考えない方がいい、いつも通り、いつもど…。
不意に、差し出した手にそっと手を重ねられた。
「っ、内村さ…」
なんなんだ、やっぱり罠か? 美人局なのか!?
速く逃げないと、このままいたらヤバい。
「山下さん、麦茶、飲んでいかれませんか? 熱中症で倒れちゃったら困るでしょ」
…え、志保さん…?