第1章 4月
19:00ともあり、すでに外は真っ暗だった。
「家まで送るわ。」
「え、そんな…大丈夫だよ。帰るくらい。」
「いや、お前になんかあったら嫌だし。」
さすが気配り上手な三ツ谷くんである。
きっと、彼はここに立っているのが私じゃなくても送り届けるんだろうな、と思うと胸がちくりと痛む。
同時に、あぁ、ここにいたのが私で良かったなんて思いも浮かぶ。
「さすがに高校だからチャリだけどな。」
自転車の鍵を私に見せながらにかっと笑う彼に、何も言えなくなってしまう。
私が荷台に乗り、三ツ谷くんのカーディガンを控えめに握ったことを確認すると、
「ちゃんとつかまっとけよ。」
と、私の腕をとり三ツ谷くんの腰へと巻かれた。
「いやいや…!裾掴ませてもらうだけで十分だよ!」
「いくぞ。」
「うわっ、」
離そうとする腕に片手を添えられて、結局離すことはできなかった。
しかも、私の反論なんて聞く耳を持たない。
でも…これって…三ツ谷くんに不思議がられずに抱き着くチャンスなのでは…!?
なんて冷静に考えられる思考を持ち合わせている自分に拍手を送りたい。
恥ずかしい気持ちをぐっと押し込めて、腕を腰に回したまま三ツ谷くんが苦しくないくらいに、少しだけ力を込めた。
そして、三ツ谷くんの広い背中におでこをくっつけた。
三ツ谷くんの匂いが胸いっぱいに広がる。
うん、今日はぐっすり眠れそうだ…。