第2章 5月
5月も終わりに近づき、来週には6月に入ろうとしていた。
金曜日の放課後。
私は誰もいない教室で、窓際の友達の席を借りて外を眺めていた。
今日は部活内で予定のある子が多かったこともあり、部活自体が休みになったのだ。
家に帰るのもいいけど、家にいても一人なので学校にいても変わりはしない。
友達と遊びに行くのもいいけれど、生憎私の仲の良い友達はみんな部活動に所属していた。
外から目線を外しカバンから数か月前に届いた手紙を取り出した。
「そろそろ、買いに行かなきゃな。」
「何を?」
「ッ!?」
ぼそっと独り言を言うと急に後ろから声が聞こえて肩を震わせた。
後ろを振り向くと、いたずらっ子のように笑みを浮かべる三ツ谷くんがいた。
「もー…びっくりした。」
苦笑いを浮かべると、三ツ谷くんは「わるい」と言葉だけで悪びれた様子もなく謝っていた。
「来週、彩夢ちゃんの結婚式があるからドレス買いに行かなきゃって思って。」
「なるほどな。」
「まぁ、お父さんの付き合いでパーティに行くから何着か持ってはいるんだけど…。せっかくの結婚式だから新調したいなって。」
「…なぁ、」
「ん?」
どんなのがいいか、イメージしてから行こうとずっと思っていたが、なかなか思いつかずにダラダラ来てしまった。でもさすがに行かなければいけない。
三ツ谷くんは手紙を見ながら少し考えるそぶりをして、ふと、私へと視線を向ける。
「ドレス、俺が選んでもいいか?」
「え?」
「いや、本当は俺が作ってやりたいところなんだけど、間に合わなそうだから。ダメか?」
三ツ谷くんに選んでもらえるなんて、願ってもいないことだった。
というか、作ってやりたいと…そう思ってくれてるならもっと早く相談すればよかったなんて後悔の念が押し寄せるが、もう時は戻ってこない。
せめて、私も三ツ谷くんに選んでもらいたい。
「ぜひ、お願いしマス…。」
恥ずかしさから目線を下に向けながらも、三ツ谷くんに返事をした。
「おう。」
三ツ谷くんがどんな表情で返事をくれたのかはわからないけど、
声のトーンからしても、めんどくさいとか、そういうことは思っていなかったと思う。