第2章 5月
―三ツ谷Side
なんとなく、本当になんとなく後ろを振り向くと、指で千夏の唇をなぞる千冬が目に入ってしまった。
そして、指についたクリームをなんのためらいもなくなめとった。
見たくなかった。なのに目を離すことができなかった。
「三ツ谷くん?大丈夫?」
「えっ…、あぁ…。」
桜に呼ばれて我に返った俺は、桜の唇の横にもクリームがついていることに気づいた。
でも、千夏以外のクリームを取りたいなんて思わなくて。
「クリームついてるぞ。」
「え!?…三ツ谷くんとってよ。」
「自分でとれるだろ。」
クリームを指摘するととってと言われるが、俺は笑ってごまかした。
桜が顔を歪め、寂しそうに千夏を見た。きっと本人はこっそり見たんだろうが、バレバレだ。
きっと、俺が千夏を好きなことも、バレバレなんだろうと思う。
その後も、桜は俺の隣を歩いたが、気まずい空気のままだった。
千夏は千冬ととてもいい雰囲気で、みんな近寄りたいのに近寄れない、そんな感じで過ぎ去った一日だった。
ー三ツ谷Side end