第1章 4月
会話が一段落すると、私は廊下側一番後ろのテーブルに生地と昨日家で準備した型紙を広げた。
「なんでそんな遠いんだよ」
「それはねー⋯。うーん。秘密かな!」
「あ?」
三ツ谷くんは窓際一番前のテーブルの一角に準備をしている。
大体、仲のいい人たちは集まってテーブルを使っている。
私自身、三ツ谷くんと仲がいいこともあり、大体近くで作業をするのだが、今日は別だ。
そんな私の行動が不可解だったのか、不思議そうに眉を顰めて問いかけてきた。
しかし、まだ言えない。
言ってもいいのだが、少し驚かせたいと思っていた。
今日はピンク色に白い水玉が広がる生地で、三ツ谷くんの二人の妹にワンピースを作る予定だった。
採寸は先日、三ツ谷くん宅で御飯をいただいた時にこっそりと⋯三ツ谷くんには内緒で行なっていた。
不思議に思いながらも、優しい三ツ谷くんはそれ以上問いかけては来ない。
ワンピースはそれほど難しくはないので、2枚くらいなら今日終わるだろう。
どんどん人が集まり、家庭科室は賑やかになる。
「三ツ谷くーん!」
「千夏ちゃーん!」
三ツ谷くんはもちろん、私の名前も飛び交う。
自分の作業も勧めたいが、頼ってくれる人を無下にもできず、
三ツ谷くんと私は、自分の作業だけでなく、部員の作業へのアドバイスも行なっていた。
まだ引退していない三年生からも声がかかるため、部活はそれなりに忙しい。
でも、ずーっとちまちま作業しているよりは、動きながら作業する方が私にはあっているのかもしれない。