第2章 5月
『あー!千夏!一人だけ背中向けててずるいゾ!ほら、千夏は好きな人いないのー!?』
そんな攻防を繰り返していると、自分たちが一番聞きたい質問がとんできて、一気に静まり返った。
ドラケンやタケミチは、ここにいる自分たち以外の男が千夏に恋心を抱いていることを知っているため、ただの好奇心だ。
『私…はー…』
『ほらほら、ごまかさないでー。』
ごくり、と男一同、唾を飲み込んだ。
『いない…くも、ないかなぁ…』
『『『キャー!!だれだれー!?』』』
『それは…内緒!!』
ーちっ、
誰の物かもわからない舌打ちが何個か響く。
『うーんじゃぁ、質問!バイク乗る人?』
『あー…、うん、そうだね。』
「ねぇけんちん、これ、俺のことかな。」
「ここにいる奴みんなバイク乗るだろ。」
マイキーの都合のいい解釈に、ドラケンは呆れるが、こんなことは日常茶飯事であるため、ため息をつきつつも返事を返す。
『それって、私たちのよく知ってる人!?』
『…まぁ…』
『次、私!今日来た人の中にいる!?』
『さぁ、どうかなー?』
ーちっ、
この会話の中で、2度目の舌打ちである。こんなに短時間で何回も舌打ちをするなんて、そうそうあることではない。
そして、確信を突く質問に、一同、柵に耳を当てる始末だ。
ーその人はどんな人?ー
『うーん…イケメンで、優しくて…私の大好きな人。』
「場地さん、これきっと俺っスよ…。千夏さん俺のことめっちゃ可愛がってくれるんで…。」
ごくり、と喉を鳴らして輝いた眼で場地を見つめるのは、千冬だ。
この中で唯一顔を伏せ、目を閉じて話を聞いていた場地は言う。
「ありえねェから安心しろ。」
「場地さんひどっ」
ふっと笑うその顔は、すべてを知っている場地だからこそ出る表情で。
愛しい千夏を想い愁いを帯びていた。
でも、
「「「「ぜってー負けねぇ」」」」
その声には、彼の声も混じっていた。
場地の立ち位置は不安定なところではあるが、彼なりに千夏の幸せを願っていた。
ー三人称 end