第2章 5月
「うまくいくといいね!」
「うん。…そういう桜ちゃんは好きな人いないの??」
「えー!?うん、まぁ…、いるよ。」
「「へー!だれだれ!?」」
本当に、女っていうのはこの手の話が大好きだと思う。
時には、いいアドバイスもくれるけど、でもライバルだったら嫌だという理由で女の子との恋バナは避けてきていた。
でも、エマとヒナは餌に食いついたかのように前のめりであることが背中越しにも容易に想像できた。
「えっと…、三ツ谷くん…かなっ」
「っ!?」
聴きなれた名前に驚いて振り返ると、桜の顔はお風呂の蒸気とは別にほほを赤く染めていてまさに『恋する乙女』。
ほら、だから嫌だったんだ。女同士の恋バナってやつは。
桜のことは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。本当にいい子だ。
なのに、恋で気まずくなるなんて馬鹿にもほどがあるじゃないか。
「あー!千夏!一人だけ背中向けててずるいゾ!ほら、千夏は好きな人いないのー!?」
私が振り返って目が合ったのをいいことに、私にまで話は飛び火してきた。
3人は私を好奇心たっぷりに見つめてくれるけど、
言えるわけない。
私も、三ツ谷くんが好きー…
「私…はー…」
「ほらほら、ごまかさないでー。」
逃がさないぞ、とでも言いたげに私に詰め寄るエマ。
他の二人も、だんだん私に距離を詰めて来て、私は人間の反射とでもいうのだろうか、徐々に後ろに下がり、ついに私の背中には竹の少しひんやりした感触がした。
「いない…くも、ないかなぁ…」
「「「キャー!!だれだれー!?」」」
さっきより喰いつきがすごいのは気のせいだろうか。
でも、そうかもしれない。私が恋バナなんて、この人たちからしたら珍しすぎるから。