第1章 4月
「先、風呂ありがとな。」
「はー…ぃ…。」
リビングでくつろいでいると、先にお風呂を済ませた三ツ谷くんが戻ってきた。
三ツ谷くんはお父さんが用意した、黒のスウェットに身を包み、まだ濡れた髪をバスタオルで拭いていた。
水も滴るイイ男と言いますが、三ツ谷くんはまさにそれ。
濡れた髪と温まって赤くなった頬がとても色っぽくてドキドキしてしまった。
「あ…ドライヤーしまってあったんだった。今出すね!」
その姿をじっと見ているわけにもいかず、ぱっと目をそらすと、慌てて洗面台へと向かった。
そんな私を見て、三ツ谷くんのふっと笑う声が聞こえた。
「はい、どうぞ。私もお風呂入るから、ここで乾かしててね。」
「おー。さんきゅー」
「いいえー。」
三ツ谷くんの返事を聞いて、私はお風呂場へと向かった。
風呂から上がり着慣れたショートパンツとTシャツを着る。
ドライヤーはリビングだからと髪を拭きながら洗面所を出た。
あ、これさっきの仕返しになるかな、なんて考えながら戻ると案の定、私の姿を見て頬を赤く染める三ツ谷くん。
口をぱくぱくさせて おまっ…、なんて言っていたので、どや顔を見せておいた。
「さっきのお返し。」
「…るせっ。ほら、風邪ひくからこっちこい。」
ソファに座っている三ツ谷くんはこほん、と一つ咳払いをすると、ソファの下、自分の足の間を指さしていた。
つまり、乾かしてくれるということだろうが、そんな恥ずかしいことはさすがにハードルが高い。
「いや、自分でできるからいいよ!」
「あ?いいから座れって。」
「いやー…ひっ…」
抵抗に抵抗を重ねるが、鋭い眼で睨まれてはいうことを聞かざるおえない。
素直に指定された場所に座ると、満足げにドライヤーで私の髪を乾かしはじめた。
「ルナ、マナに比べてすげぇおとなしいから乾かしやすいわ。」
「なにそれー?私は妹か!」
乾かしてくれると聞いて、少し浮かれてたが⋯そうだった。
彼はいつも妹たちのお世話をしているんだ。
とうぜん、髪を乾かしてあげることもあるだろう。
明るく返事をしてみたものの、妹と思われているのかもと思うと、一瞬で私の気持ちは沈んでいった。