第1章 4月
ー三ツ谷Side
千夏のお父さんが3段のタンスと服を用意してくれていたようだ。
もしかしたら、この服を使わせてもらうのは俺じゃなかったかもしれねぇんだな。
複雑な思いを振り払うように、タンスを開く。
用意してくれた服は、タンスの一段目に下着が3枚、スウェットが二着あった。
千夏がクローゼットから出たあと、他のタンスも見てみると、二段目には封筒、三段目には男のたしなみともいえるであろうゴムが入っていた。
千夏も言っていたが、確かに不思議な父である。
もしも、ルナ、マナが彼氏を連れてきたら…と思うと、お世話をしてきた自分にとっては複雑で、きっとめちゃめちゃ見定めると思う。
風呂を勧める千夏に返事をして、俺は封筒から一枚の紙を出した。
ーー
千夏の彼氏君へ
僕の大切な娘を想ってくれてありがとう。
僕としては、マイキー君かドラケン君か場地君か三ツ谷君であるととても安心なんだが。
もし違う子ならすまないね。
さて、娘はまだ高校生だ。
一人でおいていくのも気が引けるが、彼女が決めたことだから仕方がない。
娘を、守ってくれ。よろしく頼む。
不純異性交遊は禁止だ。なんて言うつもりはないが、
……わかっているね?
でも、千夏の選んだ子だ。心配はしていないよ。
服は自由に使ってくれ。
クローゼットも自由に使ってくれて構わない。
それでは、これからも末永く娘をよろしく。
ーー
その封筒は、千夏のお父さんからの手紙だった。
一見ふざけているようなことも、千夏を想うための行動だったと思った。
そして、彼氏候補の中に俺の名前もあったこと。それがすごく嬉しかった。
ただ…、まだ彼氏じゃないのに見てすんません…。
「見たからには、俺が彼氏になんねぇとな。⋯⋯なれっかな⋯⋯⋯。」
ため息を吐きつつ手紙とゴムを二段目に戻し、服一式を取ると、千夏に案内されて風呂へと向かった。
ー三ツ谷side end