第1章 4月
そんな出来事を思い出し、私は自室にある引き出しからあの時の鍵を取り出した。
「これ、お父さんが男の子が泊まりに来たら開けてみなさいって。」
「は?千夏のお父さんすげぇな。普通、娘の家に男が来るの嫌がんだろ。」
「不思議な人なもので…。」
あえて、”三ツ谷君がきたら”と言われたことは黙っておき、
鍵のかけられた一つの部屋の前へと案内した。
三ツ谷くんに鍵を開けてもらうと、
そこは1.5畳程度のウォークインクローゼットだった。
「ウォークインクローゼットもう一個あったんだ。」
ほとんど空っぽだったが、タンスが一つだけ置いてあった。
「お、服入ってる。」
「え?」
三ツ谷くんがタンスを開けてみると、男物の下着やスウェットが入っていた。
おーい、お父さーん。何してくれてんの?ほんと。
…まぁ、ありがとう。
そんなことを心でつぶやいていると、
「お前のお父さん、準備いいのな。」
そういって笑いながらタンスを閉じた。
「なんか…ちょっと恥ずかしいけど…。」
苦笑いを浮かべて部屋から出ると、丁度お湯が張り終わった音楽が聞こえた。
「三ツ谷くん、先どうぞ!」
「おー。じゃぁ先入らせてもらうわ。」
「はーい。」
三ツ谷くんに声をかけて、私はリビングでくつろぐことにした。