満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第4章 愛に似た《煉獄杏寿郎》
『君が俺を慕ってくれているのは、君に父親がいないことで、身近な大人に気を置いて、敬う気持ちが恋心だと勘違いして…』
『先生への気持ちは勘違いなんかじゃないですし、お父さんのことは、今関係ないことです!』
泣きそうな顔を挙げて、声を荒げる。
『ああ。そうだな。
君の気持ちは君だけのものだ。
誰もそれを語れない』
腕組みをして、制止するように淡々と言葉を紡いだ。
『だが君はまだ未成年だ。
俺への気持ちは未成年の…子どもの、君のものである。
君は頭が良いから、俺の言いたいことは十分にわかっているだろう?』
『…っ』
『そして君は卒業式を終えてるからといっても、3月31日までは本学の生徒だ。
俺は特定の生徒に、特別な感情は抱かない。』
我慢していたのが、限界に達したのか
沢田はボロ、と大粒の涙を流した。
怯まずに、俺は続ける。
『君は春から大学生で、視野は今より格段と広くなる。
新たな出会いもあるだろうし
君のことだから、きっとたくさんの人に慕われながら過ごすと思う。
良き友人を作り、
できれば君と年相応の青年と
君らしい恋愛をして欲しいと思ってる』
沢田は両手を顔で覆い、
ひくひくと嗚咽しながら泣いている。
ポロポロと、止めどなく。
『…うん、…っわかっ…って、たよ、先生』
『だろうな』
『うん…っ』
物分かりが良く、人の気持ちを十分に察することが出来る子だ。
改めて、この子の特性には感心する。
『聞い、て、くれてありがと、先生っ…』
涙はまだ乾かない。
溢れ出ては止まらない。
でも俺は、
その涙を、あの時のように拭うことも
寄り添うことも
止める術も知らない。出来ない。
これ以上彼女には傷ついて欲しくなかった。辛い境遇が多かった彼女には、これから良き人に出会い、たくさんの幸せに触れてほしいと思う。
しかしながら、今、その役目は、俺ではないのだ。
『…落ち着くまでここにいるといい』
こくん、と彼女は小さく頷いた。
彼女は膝から崩れ落ちた。泣き崩れてしまっていた。
彼女の我慢する小さな泣き声が、背中から伝わる。
胸がえぐられそうな、締め付けられるような気持ちがした。
どうしようもない気持ちを胸に抱きながら、
俺は彼女を1人置いて、社会準備室を後にした。