満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第4章 愛に似た《煉獄杏寿郎》
確かに彼女は、高校の頃は誰か特定の相手と付き合うとか、そういう噂はなかった。
しかしながらいつも誰かに好かれていることは確かで、告白されているのを社会準備室の窓からチラッと見えたことがある。
いくらカッコいい先輩も、優しい同級生も、可愛い後輩も、彼女の答えはいつもノーだった。
『ごめんなさい。わたし放課後はアルバイトもしてるし、妹のお世話もあるし、付き合っても楽しくないと思う!本当にごめんね…!』
とペコ、とお辞儀して丁重に断っているのを聞いた。というよりたまたま聞いてしまった。うむ。なるほど。
そう。
彼女はいつも忙しそうだった。
『沢田!沢田少女!』
『えーと、煉獄先生??』
そういえば彼女が高校1年生時の春頃。
俺は仕事が片付き学校を後にしたあと、夕飯の買い出しにスーパーに寄ると、入学したての彼女に声をかけたことがあった。
彼女に授業を行ったのはまだ1回。
しかしながら彼女は俺の名前を呼び返した。
『おつかいか?感心感心』
彼女が手にもつ買い物袋をチラッと見てニコっと笑うと、
『おつかいというか、夕飯作らなきゃダメなんで』
てへ、と笑いながら彼女は答えた。
『君がか?!それはすごいな!』
『いえいえ…長女のわたしの役目なので!』
『そうか!君も大変なのだな!気をつけて帰れよ』
『はーい!先生もねー!』
笑顔で大きく手を振る彼女。それから忙しそうに走って帰っていった。
初めて交わした、授業以外での会話だった。
のちに俺は、彼女の担任となり、引き継ぎとして彼女の調査書を読み、彼女の環境下を知ったのである。
彼女の父親は、彼女が中学生のときに病死。
そこから片親で育つ。下には小学生の妹が一人おり、仕事に行く母親の代わりに、妹の面倒や、家事をしているらしかった。
そして学校が終わるとすぐに帰り、家の近くの飲食店でアルバイトをしていた。
そんな悲偶な環境下でも、彼女はいつも穏やかで、誰かれ構わず優しく、まるで過酷な環境下でもスクスクと育つ野の花のような。
ますます彼女の境遇を聞いて、彼女に憧れる異性が現れたのは言うまでもなかった。