満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第34章 くらし、始まる※《宇髄天元》
「…波奈はそれでいいの?」
心配そうにカナヲが波奈を見つめる。
カナヲが言うには、人さらいの変態を信用してもいいのか、と言うのでクスクスと笑ってしまった。
蝶屋敷を後にして、音屋敷に移り住むことを決めたのは、
蝶屋敷で療養した方々がすべていなくなった秋だった。
今までと同様、薬も作るし訪問看護も行う予定だ。
隻眼、隻腕では生活するのはさぞや不便だろう。
と波奈は心配だった。
波奈は身体が不自由な患者を何人も看ていたので、それぐらいはすぐに予想はついた。
それに3人もいたお嫁さんが家を出たと言う。
いくら元柱とはいえ、生活する面ではきっと不便に違いないと。
音屋敷に移ることを決めたのはそれだけではないのだけれど。
恥ずかしくてカナヲには言えない。
波奈はもうずっと、出会ったときから宇髄のことが好きだったし、でもだからと言って、3人もお嫁さんがいる人とどうなるわけでもないと思っていた。波奈は3人のお嫁さんのことも、大好きだったので。
鬼殺隊を支える医療班として、宇髄という音柱を陰で支えられれば、それで。波奈の人生には悔いはなかった。
のに、まさかこうして、音屋敷に住むことになるなんて。
自分が宇髄のお嫁さんになるなんて。
冗談だとばかり思っていた宇髄の『嫁にいつくんの?』は本気だったなんて。誰が信じるのか。
『あなたはお嫁に行って、幸せになってくださいね』
師であるしのぶさんの、最後の言葉を思い出す。
しのぶさん、わたし、本当にいいんでしょうか。
…ごめんなさい、しのぶさん。
傷む胸の前でぎゅっと拳を握りしめて呟いた。