満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第31章 答えはでない《不死川実弥》
全問なんとか解き終わるも、見直しもそこそこにプリントを裏返した。
だいたい答えは埋めたけど、あとはもう知らない。
あたりを見渡すと、既に諦めて机につっぷす人、まだ解いている人、解きおわりぼんやりしている人がいる。
波奈はチラリと不死川に目線を向けた。
不死川先生は窓側の壁に背中を預け、数学の難しい何たらって言う人の本を読んでいる。
昨日その本の題名を教えてくれて、内容も簡単に説明してくれたけど、波奈にはさっぱりだった。
不死川は、教師らしからぬぐらい胸元が開いたシャツと、黒のベストを着てる。どこからどうみてもホストだけど、これで数学をちゃんと教えているのだから、不思議だ。
伏せたまつ毛は長く、その顔はごく端正だ。一見話しかけにくい雰囲気ではあるが、数学を教えるのは丁寧で、わかりやすい。それだけでなく周りに気遣いもでき優しい。それ故に女生徒からものすごく人気で、ああ言った不死川の彼女の噂話なんて日常茶飯事だった。
そのたびに、波奈はもうずっと気分が沈んでいた。
チラリと不死川が腕時計で時間を確認する。
そのまま目線を上げて、ふと横を見やると、
パチリと波奈と目が合った。
不死川はほんの少し、ふ、と優しく微笑む。
それはほんの一瞬で、目が合った波奈だけしかわからないぐらいの小さな微笑みだった。
波奈はドクっと胸が鳴って、慌てて目を逸らす。
あ、やばい、目を逸らしてしまった。
サーと顔が青くなりそう思ったけど遅かった。
もう一度不死川を見やったが、もう波奈のほうへは向いておらず、教壇に立って教科書を開いている。
……今、そんな優しく微笑むなんてずるい。
波奈はその微笑みを思い出してカア、と顔を赤らめてしまう。
2人っきりでいるときは、普段の授業中のクールな印象とは少し違い、優しく笑いかけたりしてくれる。
それを少し思い出してしまって、鼓動が速くなる。
「はい終わりィー。後ろのやつ集めろォー」
10分間の緊張の時間がふっと緩んで、生徒たちはまた文句を言う。
波奈は後ろのクラスメートにプリントを渡して、数学のノートと教科書を取り出した。
「んじゃ、昨日の続きすんぞォ」
チョークを持つ不死川は、すぐに黒板に向かった。