満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第29章 噛みつきたい!【不死川実弥】
「不死川先生のことが好きです」
そう告げられたのは夏休みに入る直前でのことだった。
数学準備室で、波奈がクラスメートたちの数学の宿題ノートを集めて訪れていたとき、唐突に告げられた。
数学準備室に口実を作って波奈を何回か訪れるように仕向けたのはこの自分で、己のことながら不甲斐なかった。
生徒である波奈にお礼だァーと言って適当に飴やお菓子や好きなおはぎをここで一緒に食べたりもした。
他の生徒には内緒であると言いながら。
諦めきれないこのどうしようもない想いを引っ張り出して、無理矢理に縫いとめて、そんな自分が情けなく感じてはいた。
「………は?なんて?」
聞き間違いだと思った。
「ですから…っ、せ、せんせいのこと、す、好きです」
カア、と波奈の顔が赤く染まる。
震える手はスカートをぎゅっと握りしめている。
その様子は、からかいや嘘ではないことが誰が見てもわかるぐらいに真剣であった。
「………」
不死川は頭を抱えた。
「……先生、困ってる」
泣き出しそうな波奈が心配そうに見つめた。
「あぁ、まァな、…困ってはいる」
「…ですよね、迷惑かけました、いいんです、早く思いっきりに振ってください」
「…いや、迷惑じゃねェーから困ってんじゃねーか」
「……?それ、どう言う意味でしょうか…」
動揺する波奈の頭を、くしゃりと撫でた。
「…おめーが卒業しても、まだ同じ気持ちなら、もう一回聞かせろ」
「…えっ、先生、ふ、ふらないの……」
「…ふらねェよ」
拍子抜けたような波奈のポカンとする顔に、思わずくっと笑ってしまった。
まあ、頭の良いこいつなら俺の気持ちもこれだけの言葉で事足りるだろう、と不死川は思った。
その証拠に、波奈は心底嬉しさを隠しきれなくて口元が緩み、嬉しそうに涙を浮かべている。
「卒業までまっててね、先生」
人差し指で涙を拭いながら、波奈は不死川に笑いかけた。