満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第25章 前世から※【宇髄天元】
「おいお前ほんと生きてんのかァ?」
「……生きてねーよ死んだんだよ俺は」
居酒屋のカウンター席で、ビールを一気に流し込んだ後、でかくて派手な同僚が机に突っ伏してしまった。パーカーのフードをかぶって。
その様子に思わず悪いと思うがブっと笑ってしまう。
こんな姿の同僚を見るのは非常に珍しい。いや初めてだ。
「お前な、彼女が出てったくらいでなんだァその体たらくは」
「…うるせーよ…つか飯が不味い」
「ちゃんと食べろォ」
居酒屋で適当に頼んだメニューに、チラッと目線を移した宇髄は、本当に食欲がなさそうだ。
宇髄が明らかに死んだような顔で出勤しだしてから、一週間が経とうとしている。
それまでの4ヶ月、宇髄はお昼にお弁当を持ってきており、始終顔がほころび、そのお弁当を食べるときは鼻唄を機嫌よく奏でながら食べていた。
宇髄天元はどうやらお弁当を作ってくれる彼女ができ、今までの宇髄天元とは考えられないほどその女に入れ込んでいることは、誰の目からも顕著であった。
「…飯がまずい、あいつの飯が食いたい…」
そうポツリと泣き言を言う宇髄はどうやら本気で傷ついているらしい。お弁当の彼女に、がっつりと胃袋も掴まれている。
あの常に自信満々で派手派手なあいつはどこにいったんだ?
「そんなにその女が好きだったのか」
「…」
「どんなやつだよ、いくつだ?何やってるやつ?」
学生時代モテにモテたこいつが惚れ込む女は、一体どんな奴だと純粋に疑問だ。
「……不死川も知ってる」
「あァ?誰だよ」
「…お前担任してたわ」
ブッ、とビールを吹き出してしまった。
「…生徒かよォ」
「元な」
「当たり前だァ」
ハァ、と呆れながら息を吐く。
俺が担任を持った生徒で、もう卒業生。
去年、高校三年生を受け持ち卒業生を送り出した。
こいつがお弁当を持ち出したのはそれからまもなくしてから。
こいつまさかもう家に連れ込んでたのか…と呆れながらビールを一口呑んだ。