満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第25章 前世から※【宇髄天元】
ピーピーとオーブンの機械音が鳴り、焼き時間の終了を教えてくれた。ミトンをつけて扉を開けると、ふっくらと膨らんだシフォンケーキが見え、ほっと安心した。
すぐに取り出して、焼き縮むのを防ぐために上からトンと落とし、ひっくり返し固定する。
甘いものがあまり得意ではない宇髄さんだけど、前に一度だけ焼いた甘さ控えめのシフォンケーキを気に入って食べてくれた。
あのときの喜んだ顔を思い出して少し可笑しくなった。
『今日は早く帰るから2人で派手にお祝いしよーぜ!』
と朝言われて、至極嬉しかった。
記念日を覚えていたことにまず驚いて、それを大切にしてくれるだなんてもっと驚いてしまった。
3年前の高校1年生の8月。
それまで毎日のように顔を合わせていたのに、夏休みが入ることでそれはできないんだなあ、さみしいなあ、と思っていたが、修了式の日に連絡先を交換して、お前は特別だ、と言われた。
先生と生徒だからそれ以上は言えないと、好きだとははっきりとは言われなかったけど、想いが通じ合ったのは確かだった。
時計を見ると午後7時を回っている。
早く帰ると朝言っていたけれど、まだ仕事なのだろうか…。
ズキ、と胸が苦しくなった。
今日のバイトの帰り、カフェで宇髄さんを見かけた。
宇髄さんと向かい合わせで座っているのは、綺麗な女の人で、黒のスーツがよく似合っていた。
仕事の打ち合わせと言っていたからきっとその相手なんだろうけど、胸がざわざわとした。